広島高等裁判所 昭和50年(ラ)42号 決定 1975年11月17日
抗告人
ヤナセ工業株式会社
右代表者
丸口義邦
右代理人
星野民雄
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨と理由は、別紙記載のとおりである。
同抗告理由第一、二点について。
本件記録によると、次の事実が認められる。
株式会社広島相互銀行と抗告人との間で、昭和四六年一〇月二八日相互銀行取引契約を締結し、同四七年三月二五日抗告人は右銀行に対し、前記取引上生ずる一切の債務を担保するため(ただし根抵当権に関する新法適用のため後日担保債務に変更がある。)、抗告人所有の広島市大芝一丁目一九番一四宅地294.06平方メートル(以下本件土地という。)につき債権極度額三、三〇〇万円の根抵当権を設定し、同月二七日広島法務局受付第一一七八四号をもつてその旨の登記を経由した。
本件土地上に存する、家屋番号一九番一四の二、鉄骨造陸屋根四階建事務所・居宅・車庫(一ないし三階各々150.15平方メートル、四階26.95平方メートル、以下本件建物という。)は、抗告人が同年五月建築に着手し、同年一〇月新築して所有するものであるが、同年一二月二〇日これにつき共同担保として前同様の根抵当権が設定され、同日広島法務局受付第五五七六三号をもつてその旨の登記を経由した。
右銀行は、合計三、三〇〇万円の貸金債権の弁済に充てるため、本件土地および建物に対し前記根抵当権を実行し、一括競売により、松浦光秋に対し代金五、四七八万九、〇六〇円で競落を許可する旨の決定がされた。
以上の認定事実によると、本件建物は本件土地に対する前記根抵当権設定後に抗告人によつて同地上に建築されたものであるから、本件建物のため本件土地に対する法定地上権は生じない。従つて、本件土地に対する前記根抵当権のみが実行された場合においては、その競落人に対し、本件建物の所有者はこれを収去して本件土地を明渡すべき義務を負うことになる。
ところで、民法三八九条は「抵当権設定ノ後其設定者カ抵当地ニ建物ヲ築造シタルトキハ抵当権者ハ土地ト共ニ之ヲ競売スルコトヲ得」と定めるが、それは、建物を建物としてその敷地上に存置せしめてその所有者および社会経済上の利益を保護する趣旨をも含むものと解されるから、右趣旨に徴すると、たとえ抵当土地とともに建物を競売すれば過剰競売となる場合といえども、同条の適用があるものと解するのが相当である。
そうすると、本件の場合、たとえ過剰競売となつても、本件建物本件土地上にそのまま存置せしめるため一括競売することが許されるのである。
従つて、本件土地および建物を一括競売することは過剰競売になるから許されないとし、それを前提として本件土地および建物ごとに最低競売価格を定めて個別競売をすべき旨の所論は、いずれも理由がない。
同第三点について。
競売期日における競買申出人が誰であるかは、表示行為を通じて客観的に確定すべきであるところ、本件競売期日において松浦光秋が競買の申出をしたことは本件不動産競売調書により明らかである。
たとえ、竹川義則が本件競売期日に出頭しており、その指示に基づいて松浦光秋が競買の申出をしたものであるとか、あるいは、競落代金の調達が竹川義則のもとにおいてもつぱら行われているなどの事実があつたとしても、これをもつて前記認定を左右することはできない。
従つて、所論のような違法はないから論旨は採用できない。
なお、本件記録を精査しても、他に原決定を取消すべき違法はない。
よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(宮田信夫 高山健三 武波保男)
〔抗告の趣旨〕
原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。
〔抗告の理由〕
一、第一点
本件記録によれば本件競売事件の請求債権額は三、三〇〇万円であり、国税徴収法による交付請求額は、広島西社会保険出張所長よりの六三五、一三一円、広島市長の一、八九三、九八〇円で、その合計額は、三五、五二九、一一一円である。
鑑定人吉岡謙の鑑定書によれば、競売に付すべき物件の土地、建物のうち、
一、土地の評価は、
三五、九四四、二六〇円
二、建物の評価は、
一八、八四四、八〇〇円
となつておるので、右土地の評価額は、前記債権額に競売費用を加算しても、これを償うに足りうるものである。
かかる場合には、新競売期日指定の場合を考慮しても、競売及び競落期日公告の最低競売価額の記載には、土地及び建物の最低競売価額を個別的に記載せねばならないのに、原裁判所は右二筆の合計最低価額五四、七八九、〇六〇円のみを記載したのは、結局、民事訴訟法第六五八条第六の要件を具備しない違法あるものである。
二、第二点
本件不動産競売調書によれば、競売に付すべき不動産、土地建物の二筆を最低競売価額合計五四、七八九、〇六〇円にて松浦光秋が競落申出をなし、原審は昭和五〇年六月二七日競落許可決定をした。
右競売調書ならびに競落許可決定書にては、本件土地について、競売価額が明示されていないけれども、第一点において述べたとおり、土地の評価額が、三五、九四四、二六〇円であるので、土地のみの競落により、本件競売申立人の債権は満足されるのである。
しかるときは、本件建物の競売は、民事訴訟法第六七五条により競落不許の決定をなすべき筋合であるのに、これをしなかつた原決定は、右法条に違背し、取消さるべきものである。
三、第三点
本件記載によるときは、競売申出人は、松浦光秋となつており、同人に対し競落許可決定がなされている。
しかしながら抗告人の調査によるときは、同人は真実の競落人でなく、競売申出人は、竹川義則である。
昭和五〇年六月二六日の本件競売の場所である広島地方裁判所に竹川は松浦とともに出頭しており、同人の指示にもとづいて松浦が競売申出をしたが、松浦は同人の傀儡に過ぎない。
竹川が、本件不動産を競落した事実は、別紙調査報告書(東京商工興信所広島支社)により明かである。
尚、この点については、現在尚、詳細調査中である。
叙上の次第であるので、原決定は競落人でないものを競落人として許可決定せられたものであり当然、とり消さるべきものである。